渇望の鬼、欺く狐
「どの色に致しましょうか?」


「えぇと……」



 どれが一番、藍の髪に映えるだろう。



 どうにも決め難くさせる程には、目の前にあるかんざしはそれぞれに存在感を放っていた。

 そのまま少し考えた狐は、一つ息を吐いて漏らす。



「全部くれる?」



 その言葉に、店主の顔つきが更に笑みを深めていく。

 幻術で葉っぱを金に見せて店主へと渡せば、店主は嬉しそうにそれを受け取った。

 普段よりも数の多くなった土産に、満足感を抱きながら狐が店を出ようとすれば、目の前には親子が映り込む。

 母親らしき人間の前を、覚束ない足取りで歩く赤子。

 やがて赤子は狐の前で立ち止まると、ジっと狐を見上げて。

 馴染み深い顔を思い出した狐は、しゃがみ込んでその頭を撫でた。



「あら、すみません」



「いえ」と返したところで、店の奥からはたった今挨拶を交わしたばかりの、店主の声が届いた。



「あ? 何やってんだ?」



 
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