渇望の鬼、欺く狐
 こちらへと寄ってきた店主に、女性は口を開く。



「たまたま近く通ったのよ。折角だから寄っていこうと思って」



 クスクスと笑う女性は、少し楽しそうで。

 首を傾げた狐に、店主は気まずそうな顔を浮かべながらに紡いだ。



「旦那、すみませんね。家内でして」


「あぁ、だったらこの子は息子さん?」


「恥ずかしながら」



 気まずそうにしながらも、店主は女性や赤子を見る目に温かさを携える。

 自分にも似た存在が居る事に親近感を覚えたのか、狐は店主へと訊ねていた。



「今どのぐらい?」


「丁度一歳と二ヶ月になります」



 あぁ、そういえば旭に「ゆーゆ」と呼ばれだしたのも、確か旭がそのぐらいだったか。



 そう思った狐は、本当に何の気なくその言葉を発していた。



「そう。だったら、もう色々喋る?」



 その言葉にキョトンとした女性は、クスクスと笑って。

 疑問を抱いた狐へと、その言葉はかけられた。
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