渇望の鬼、欺く狐
「家はゆっくりなので。まだ全然なんですよ。まんまぐらいです」


「へぇ……」



 取り立てて気にする程でもないハズの会話。

 なのに狐は妙に引っ掛かりを覚えていた。



「旦那も近くに同じぐらいのお子さんが?」


「あぁ。親戚の子なんだ。えぇと……赤ん坊って歩くのどれぐらいだっけ?」



 訊ねた質問。

 その質問に答えて見せたのは、店主ではなく女性の方だった。



「個人差はあると思いますけど……。家は一歳を越えたぐらいでしたかねぇ……」


「……そう」



 狐は頭で考える。



 ……旭が歩き始めた時期は確か。

 ……駄目だ、思い出せない。



 思い出せないけれど、鬼が「もうすぐ旭の誕生日だ」と言っていた時期にはすでに歩き出していたから、一歳以前だったのだろう。





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