渇望の鬼、欺く狐
「旦那? どうしました?」


「え? あ、いや……。すまないね、じゃあまた来るよ」



 店主の言葉に我に返った狐。

 笑みを作り、軽く挨拶をして今度こそ店を後にした。

 相変わらず活気付いた町中を、砂利を引き摺らせて歩きながらに狐は思う。



 個人差。

 確かにそうだ。

 そうなのだけれど。


 
 その足が、一度ピタリと止まって。

 また動き始めた時、その目は微かに眼光を強めていた。

 その事に気付く者など、誰一人居ない。

 そしてそれは、狐自身にも気付く事は出来なかった。

 
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