渇望の鬼、欺く狐
 狐が野うさぎの背中を撫でてやれば、野うさぎは地面へ腹部をつけて寝そべってみせる。

 それはまるで「もっと触って」とでも言っているかのようで。

 そんな野うさぎを目に映しながら。

 狐は込み上げる感情を隠す事もせず、その表情へと浮かばせた。



 ……あぁ、やっぱりだ。



 ただ野うさぎだけが、目に映す事の出来るその表情。

 嬉しい、とはまた違う。

 そんな表情よりも、もっと深くて。

 もっと狂おしい。

 陶酔。

 恍惚。

 きっと挙げるとするなら、そんな言葉。



「……っ、はは、あはははは」



 あぁ、藍、旭。

 嬉しくて嬉しくて堪らないよ。

 だって俺たちは――。



 狐の思考は誰にもわからない。

 ただその脳を保有する狐だけが。

 全てを理解し、溢れ返る感情から笑いを漏らしていた。
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