渇望の鬼、欺く狐
「旭。次買出しに行ったら、お前に新しい鞠買ってきてやろうか」



 泣きそうな赤子の顔を尻尾で撫で付ければ、今度は赤子は否定の言葉を口にはしなくて。

 そんな赤子を微笑ましく思いながら。



「今の鞠も結構汚れてきただろ? だから今度はちゃんと買ってきてやるから。な?」



 かけた言葉に頷いた赤子を。

 穏やかに笑った鬼を。

 狐は再度、後ろから抱きしめ直した。



 鞠の他にも、旭が喜びそうな物を見繕ってやろう。



 そんな事を思いながら。

 自分の腕に伝わる鬼と赤子の感触を、体温を。

 擦り寄った鬼の背中で目を瞑る事で、更に自分へと植え付けて。

 赤子が飯を終える時まで、この体勢を維持していようと幸せに浸っていた。
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