刺青
刺青


「うぃー・・・、」

そんな声なんて出しちゃって・・・。
彼は、機嫌が良さそうに毛足の長いラグへと腹這いになった。

「肩凝ってたのになぁー。」

負け惜しみを言いつつ、うっかりジャンケンで負けたから、罰ゲームのマッサージ。
スエットを腰ギリギリで穿いた逞しい身体が目の前に横たわれば、ちょっと悔しいけど黙ってその腰へ跨った。

「重くない?」

「全然。」

顔の前で手を組んで、頬を預けて軽く目を瞑る。
見慣れない眺めからの彼に、芽生えた、動揺。

「やるよー。」

ワザと陽気な声を出して、その[背中]へと指を滑らせた。


彼には大きな刺青がある。
背中を覆うほどの大きな桜。
桜の下にトラや天女が存在する事はなく、豪快にその存在だけ。
彼の背中の肩甲骨の張りや背骨のくぼみ、肩から背中にかけてのなだらかなラインが、その桜をより壮大に見せるよい演出。よく、筋トレしてるもんね。
この桜を彫った人に会わせて貰ったら、キャップを斜めに被ってスケボーを得意とする可愛い男の子で驚いたんだっけ。

ベッドの中でこの存在を初めて知らされたんだけど、怖くは、なかった。
むしろ、身体の中の・・・、未知の華が悦んで、咲いた。


ああ、「腰を揉め。」って言われたんだっけ。

言いつけを守らず、桜の輪郭を中指でゆっくりと辿る。
指が止まった先には、身体を屈めてキスを落とした。彼に押し倒されたかったワケじゃなく、唇で触れたい気持ちが先行してしまっただけ。胸が無意識に上下して、少し興奮してる自分に気がつかされる。

「くすぐってぇよ。」

屈んだ時に彼の背中を撫でる私の髪に、彼は腰を二度揺すって抗議する。
それでも構わず、唇を寄せた。

「・・・ったく、ジャンケンの意味ねーじゃん。」って、強引に身体を捩じれば、私を乗せたまま腹筋を使って軽やかに上半身を起こす。
桜と同じ位・・・大好きな彼の顔を見下ろしてたら、私の頬にその大きな手を乱暴に添えたんだ。

もう、何も言えなくなっていた。
彼の艶。
露わになった腰骨も、熱を帯びたその眼差しも、ワザと舌で濡らした唇も。

「明日、早番だっつうから気遣ったのに。」

ダルそうに、でもその距離は縮んでる。

「うん?」

「いつからそんなエロい女になったんだ?ん?」


聞いておいて、唇を塞がないで。
全部あなたのせいでしょう?





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