運命を恨む愛しの炎
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機嫌の悪い日には書庫にこもって読書に更けるのが彼の常であった。
この日も同じく、どこへ行ったかと屋敷内を探し回れば、カビ臭い羽目板張りの大きな部屋の隅っこで安楽椅子の上に丸くなっていた。
仕事放棄した我が主に、部屋に戻るよう諭す気はまったくなかった。
分厚い本に目を落とす彼は、特に気配を消さないで近付く私にまったく気付かない。
『私が眼中に無い』というのが妙に気に食わなくて、目に留まらないことをいいことに私は背中に回って彼の肩越しに読んでいる書物を見た。
「………っ」
見て、後悔する。
右側ページのまん中は黒い正方形にグレーのラインが縦に引かれており、そのラインに手をかけて、正方形に閉じ込められた小人がぐったり項垂れていた。
本は、監獄である。
これは『人である権力』を奪われた我が主の仕事であり義務。
大罪を犯した者の命を本に閉じ込め、永遠に生まれ変われないようにする。
主は獄吏である。
その仕事は半永久的。
許される者などまずいないから、本の数は毎年増えるばかり。
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