運命を恨む愛しの炎
「なにをしでかした罪人です」
声をかければ、大袈裟に彼は肩を揺らせた。
いつもらしからぬ態度、書物だからこそ今の彼はほぼ『原型に近い』彼であり、こうして人の声に怯えることもある。
珍しく人間くさい。
『今の』彼は無情で冷徹が常であり、故に敵も多い。
暗闇から突然ライオンが飛び出してきたりしても、まったく動じない人の筈なのに。
「……殺人だ」
振り返らず、それだけ答えた。
思考が異常に速い。
話しかけたのが私であると判断を下すのに一秒とかからなかったことだろう。
「親族17人を短剣で滅多刺しにした殺人鬼」
「…それだけですか?」
「年代を見ろ」
左側ページには、その殺人鬼のプロフィールが詳細に書き込まれている。
同姓同名を間違わないように、経歴の部分は特に詳しく記されていなければならない。
指定された項目を見れば、なるほど、中世期。
「ただの殺人でも大罪だろ、親族なら尚更」
そう言って我が主は、やっと振り返って笑った。
深紅の両眼が三日月に歪む。