運命を恨む愛しの炎
「賢者は時に愚か者より愚かな真似をする」
「…誰の格言でしょう」
「さあ、でも的を得た言葉だと思わないか、実例がここにいる」
「………」
愚かな真似をした賢者。
『自分が生まれなかったら世界は至極平和だった』と後悔する賢者は端から見れば愚かなんだ。
生を願わぬ者など人ではない。
同じように老いて死を望まぬ者など人ではない。
人は生と死の繰り返しを理解して然るべきなのだから。
だから人は生かされるし死なされる。
可笑しな理屈と言葉だけれど。
「『あのときは』、速い話が、俺が女神<彼女>に逆らえば『あの子は救われた』――…仕方がなかったんだ」
賢者の愚行はただ一人を救うために。
ただのエゴイズムだと言うけれど、人はそれを優しさと呼ぶ。