思いが瞬を駆け抜けて~時代を越えた物語~
〜松尾城〜
さすが忍と言うべきか。
浜松城を出た佐助さんは翌朝には小県へと私を連れ戻した。
松尾城の城門が見える。
「全く…大将に何て説明するのさ〜。きっと相当お怒りだぞ?」
「うぅ…っ、ですよね……。」
「まぁ、大将はちゃんと収穫があればそれで許してもらえるかも知れないけど…。」
佐助さんは少し苦い表情をしている。
何か面倒事でもあるだろうか。
しかし、そんな疑問もすぐに消えた。
__城門に立つ人影
門番の兵が何か諌めようとしているが、それを突っぱねてそこを動かない。
『幸村様、どうか城内へお戻り下さいませ!昨夜からずっとではありませぬか!風邪を召されます!』
『昌幸様にも叱られます〜!』
「俺は風邪を引かぬし、父上は何とかなる。俺はもう暫くここにいるぞ。」
___幸村だ。
まさか、私を待ってたの……?
佐助さんに視線を向けると、佐助さんは無言で頷いた。
私って奴は本当に__……
佐助さんは城門の少し前くらいで私を降ろして姿を眩ませた。
私は申し訳なくてすごすごと進む。
幸村は私だとわかると直ぐに走って迎えに来た。
「幸村…あの……」
「馬鹿者!!一人で敵地に赴くなのど何を考えておるのだ!!お前はもはや真田の中心。殺されてもおかしくないのだぞ!!」
幸村は私を怒鳴り付けた。
私はただ下を向いている事しかできない。
幸村の言うことは最もだ。
何にも言い返せない。
ふと幸村の顔を見上げる。
え……?
幸村が少し潤んでる……?
「幸む……」
声を掛けようとしたその時。
___幸村は私を抱き締めた。
「無事でよかった……真琴がいなくなったら俺は……っ」
幸村の必死な想い。
そして私を大切にしてくれているという実感。
___もうお互いに迷いはなかった。
「真琴、お前の事が何よりも大切だ。俺が真琴を護る。
だから…俺のそばに居てくれ。」
「幸村のそばに居る。ずっとそばにいるよ。」
いつもお互いに不器用で言葉に出来なかった想い。
___やっと言えた。
私たちは暫くそのままでいた。