思いが瞬を駆け抜けて~時代を越えた物語~
~新府城・謁見の間~
「勝頼様、真田昌幸様がお見えです。」
「……喜兵衛(キヘエ)か。」
上座に座る体格のよい青年は表情を変えずに言った。
武田家当主・武田勝頼である。
「何度か文にもあったが……この城のことで参ったな……?」
この青年も何かと悩んでいるようだ。
「それと……昌幸様は連れの入室の許可を求めていますが……」
「連れ?……まぁよいだろう。」
「昌幸様にその旨を伝えて参ります。」
侍女は静かに退室していった。
そして、その侍女と入れ替わるようにまた一人入ってきた。
昌幸とさほど歳が変わらないであろう、青年である。
着ているものは上質なもので、見ただけで重臣だとわかる。
目はおっとりとしており、柔和な感じだ。
「喜兵衛が来たと聞きました。」
「……信茂(ノブシゲ)か。耳が早いのぉ。」
「えぇ。」
信茂と呼ばれた青年はにこっと微笑む。
武田二十四将に名を連ねる小山田信茂(オヤマダノブシゲ)。
勝頼が頼りにする重臣の一人である。
「喜兵衛がわざわざ来たのも興味深いですが……」
信茂は目を細める。
「私めには連れの方が興味深い。」
そして、昌幸とその連れが来るであろうという廊下を見つめた。
「これは武田の存続に関わる大事な軍議になりそうだな……他の者も……」
「私めと喜兵衛の二人だけでよろしいでしょう。」
「まことか?」
「えぇ。喜兵衛も何か考えがあって急に参ったのでしょう。」
「………そうか。ではそうしよう。」
この時、上座に座っていた勝頼は信茂が少し悲しい顔をしていた事には気付いていなかった……