思いが瞬を駆け抜けて~時代を越えた物語~
地炉の間に行くと昌幸様が戻る時に同行していた信幸様が座っていた。
「待っていた。幸村、真琴どの入りなさい。」
信幸様に手招きをされて入る。
地炉の間は狭い。
4人入るので精一杯の広さだった。
もともと地炉の間は密談などに使うように昌幸様が作った部屋。
狭い方が都合がいいとの事だ。
幸村と私が座って間も無く昌幸様も入ってきて4人が揃った。
「時間がない。単刀直入で言うぞ。なぜ戻ってきた幸村。」
昌幸様は表情一つ変えずに厳しい一言を放つ。
「それは…」
「それは私の責任です。」
幸村の言葉を遮って私が答える。
「ほう。何故だ?」
「私が心変わりした勝頼様を説得できなかったからです。」
「それで戻ってきたと?」
「……はい。」
すると昌幸様はははは!と笑いながら言った。
「試しただけだ、許せ。」
「え…?」
「全て背負い込まなくていいのだぞ真琴。草の者や沙江から聞いている。」
「………。」
「お館様が術に掛かって正常に判断できる状況ではなかったということをな。」
「私にも責任があるのも事実です!」
そう言った私の頭に手を優しくポンっと昌幸様は置いた。
「これは仕方のない運命だ……儂もどこかそう感じていた。お前の責任ではない。」
昌幸様は悲しそうな顔で笑っていた。
そうだ…私は昌幸様に伝えなきゃいけない事があったんだ。
勝頼様の最後の伝言……。
「昌幸様。私、勝頼様からこんな事を言われたんです。」
「お館様が?」
「はい。『喜兵衛には苦労を掛けた…後は自由に生きるべきだ』と仰ってました…。」
昌幸様は驚きを隠せない様だった。
強く拳を握りしめ下を向いたまましばらく沈黙が続く。
そして大きな決意を固めた眼差しを向けて宣言する。
「お館様が残したこの真田家は何としてでも生き残らねばならん!」
そして立ち上がり、
「今日よりこの真田はどんな手段を用いてでも生き残る事を第一とする!たとえなんと言われ様と残れば勝ちよ!!」
信幸様も幸村も…そして私も大きく頷く。
____………
一方、岩殿へ向かった勝頼様一行に変えることの出来なかった歴史が迫っていた……。