思いが瞬を駆け抜けて~時代を越えた物語~
佐助さんの報告から2日後。
遂に織田軍がここ岩櫃に攻めかけてきた。
「おい!矢沢の叔父殿はどうなってる!」
『はっ!岩櫃城へ迫る織田軍に一歩も引かない戦いぶりでございます!』
「次!信幸達ははどうなっている?」
『はっ!信幸様と幸村様は見事な連携で織田軍を押し返しておりまする!』
「よし!」
昌幸様の指示が飛ぶ岩櫃城内。
織田軍と真田軍の兵力差は歴然。
おそらく武田領を全て平らげるつもりだろう。
今はやや有利であるがこのまま戦が長引けば不利になるのは明らかだった。
「真琴っ!兵たちの傷の手当てを頼む!」
「はい!」
そして私は昨日の打ち合わせ通り岩櫃に残り昌幸様の指示を仰いでいた。
足軽さんたちの怪我の手当てでもなかなかキツイのに今戦場へ行っても足手まといになるのは分かっている。
「はぁ…もっと役に立てたらいいのに」
足軽のおじいさんの手当てをしながら思わず溜息。
「おぉ…恋する乙女じゃの〜」
おじいさんはニンマリと笑って言った。
「な!そんなのわからないじゃないですか!」
「いや〜大切な想い人の為に役に立ちたいと言うのが女だに。」
私は顔を真っ赤にして塗り薬をおじいさんの傷口に塗った。
「あたたた!嬢ちゃん容赦ないの……」
「あ、すみません!つい……おじいさんが恥ずかしい事言うからですよ!」
「若いっていいのぉ。さて、若いもんの行き先の為に儂は行くとするかね。」
おじいさんは笑ながら槍を杖代わりにして立ち上がると城門へ向かって歩き始めた。
皆戦ってる。
この地の為に……大切な人の為に。
真田軍の強みは誰かを思い、この地を思う気持ちが強いことだ。
一体感が違う。
だけどこのまま時間が経てば、やがて織田本隊がここに来る。
数で圧倒されてしまえばこの小さな岩櫃城はひとたまりもない。
だけど、昌幸様は焦る様子もなく。
何かを待っているようにしか見えなかった。