思いが瞬を駆け抜けて~時代を越えた物語~
〜大広間〜
昌幸様が上座に座って、私が下座の脇に座っていると間も無く使者が現れた。
どこでもいそうな……。
特にコレといった印象は残らなそうな人だ。
「和平の交渉に応じていただき痛みいる。某は、滝川左近一益と申す。」
織田方の使者はそう言って丁寧に挨拶をした。
って、ええええ⁈
この地味な人が織田四天王の一人の滝川一益⁈
歴史の人物って実際会ってみないとわからないもんだなぁ……。
「真琴、いかがした?」
「い、いえ!なんでもないデス。」
私の不審な返事に昌幸様は少し首を傾げたが、今はその場合ではない。
「そうか。して…左近殿、何故和平の交渉を今?」
そこだ。
私が一番疑問に思うところ。
その答えに一益は神妙な顔になる。
「そなたの主君、武田勝頼公は7日明朝御自害なされた。……もはやこれ以上犠牲を出す必要はない。」
「お館様が……。そうであったか…。」
あれ……?
昌幸様はとっくに勝頼様が亡くなった事は知ってるはずなのに……。
知らないフリをしてる……?
「昌幸殿、織田に降伏なされ。信長様は最後まで忠誠を貫いたそなたを高く評価されておる。領土の事も某が取り図ろう。如何か?」
「ふむ……。」
昌幸様は少し悩んでいる態をしたが、私はわかっている。
昌幸様の答えを。
「これ以上の犠牲はこちらも出したくない。将兵の命と領土の安堵を約束いたして下さるならば降伏いたす。」
そう。
昌幸様はその答えを出すと。
待っていたのは将兵の命を守りつつ、領土の安堵。
だから知らないフリをしてまで……。
昌幸様の答えを聞いた一益は表情を和らげ実に嬉しそうだ。
「いやあ!よかった!この左近一益、昌幸殿との約束必ずや果たしましょう!」
こうして真田と織田の和平は結ばれて武田征伐は終わりを告げた。
あるところではまた別の終わりを告げているのを知らずに___