思いが瞬を駆け抜けて~時代を越えた物語~
海の音がする___
海が近いんだとわかる。
私が半蔵に連れられてここ浜松城に来たのは陽の沈みかけた時刻。
農具を担いだ農夫や柴を担ぐ人にすれ違う。
『おお、徳川様のところの半蔵様じゃ。』
『あの娘子は誰だみゃあ…』
『可愛らしいのぉ。』
すれ違う度に聞こえる会話。
こう聞いているとここも、沼田も変わらない。
領民は家康を慕っているんだ。
とても、怯えてる様には感じられないから。
もしかすると、私の思っている家康は何か間違っているのかもしれない。
領主が領民を思う気持ちは変わらないから……。
そんな事を考えているうちに、浜松城城門まで来ていた。
『半蔵様!この娘は……?』
「殿の客だ。」
『し、失礼しました!どうぞお入りなされ。』
「は、はい…ありがとうございます…」
そうして城門をくぐる。
浜松城は真田の治める地域の城よりも大きく、城壁も立派だ。
落とそうと思えば難しいかもしれない。
「あまり変な事を考えるなよ。俺は家康の命だから従っているにすぎない。不審な行動をとれば殺すぞ。」
そう言って睨みつける半蔵。
今まで抑えていた殺気が一気に解き放たれたかのようだった。
「わ、わかってます……。」
流石に怖くて声が上ずってしまう。
半蔵を下手に怒らせない方がいいみたい。
もう家康の所まで行くまで下向いたままでいよう。
うん、そうしよう。
__経つこと数分。
私は少し広めの客間に案内された。
微かに匂う薬草の香り。
「ここで少し待ってろ。」
半蔵は去って行った。