月夜の翡翠と貴方
プロローグ
『お前の容姿を買ってやる』、と言われた。
あくまで容姿だけなのだ、と。
『お前は見世物だ。奴隷だ。つけあがるな、自惚れるな。容姿以外に、価値など無い』
『私のために尽くせ。跪け』
それはまるで、地獄のようだった。
この容姿のせいで、一体何度地獄を味わっただろうか。
これを誇りに思っていた頃など、とうの昔に過ぎ去った。
今はひたすら、この身体が憎い。
壊してしまいたい。
この顔も、身体も、髪も。
いらない。
こんなもの、いらない。
耐え難くなった少女は何人目かになる主人の家で、使用人の目を盗んで鋭く光るナイフを手にした。
そうだ、壊してしまおう。
もういっそ、この手で壊してしまえばいいのだ。
しかし、少女に気づいた主人の男が、ナイフを取り上げ怒鳴った。
やめろ、と。
そんなことをしても、何の意味もない。
お前の価値はそれだけだというのに、それを壊してどうするのだ、と。
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