月夜の翡翠と貴方
「…そうか」
声色が、当初の青年の明るいものとはまるで違っていた。
…なにを、考えているのだろう。
うずくまったままの少女には、青年の顔が見えない。
眉を寄せていると、すぐそばでジャリ、という靴が擦れる音がした。
「……いいよ。俺は向こう向いてるから、テントに戻りな」
その、心なしか優しい声に、思わず頭を上げる。
本当に青年は、少女に背を向けていた。
「………すみません………」
そう呟いてフードを被り、空のバケツを持ち、少女は走ってテントへ向かった。
青年の姿が小さく見えるぐらいのところで、振り返る。
彼は、向こうを見続けたままだった。