月夜の翡翠と貴方
橙、十五秒、深緑
月が出て、雲が浮かぶ。
そんな、当たり前の夜。
ただ、私の心の内だけが、いつもとは明らかに違っていた。
「………どうした、ファナ」
奴隷の子供達が過ごすテントの隣に、小さな店主のテントが張られた。
それが、店終いの印。
そのテントの中へ、ファナと呼ばれた私は、『彼』の顔色を伺いながら、入った。
…店主である『彼』、エルガは私の様子を見て、面白そうに笑う。
「…なんだ、腹でも減ったのか?それなら喜べ。今日はひとり、パン二枚だぞ」
…そうじゃ、ない。
私は首を横に振る。
...わかっているくせに。
「…じゃあ、なんだ?」
「…………」
なにも言わないでいると、エルガはふっと笑って言った。
「…今日、店に来た青年か」