月夜の翡翠と貴方


そして、静かに口を開く。


「………お前の素顔が晒されれば、確実に買われるだろうな」


その言葉に、小さく手が震え始める。

今日のあの青年を思い出して、怖くなった。


「………どうするかは……いや、どうなるかは、お前次第だよ」

「………………」


私には、こくん、と頷いて、テントから出ることしか出来なかった。






エルガは、稀な店主である。


奴隷屋の店主だというのに、奴隷に対して優しい。

奴隷ひとりひとりを理解し、世話しようとしている。

稀というか、変わっているというか、おかしな店主である。


今だって笑顔で、奴隷の子供達ひとりひとりに、パンを二枚ずつ分け与えている。

奴隷屋は、あまり儲かるものではない。

奴隷の売値など、たかが知れている。

普通の奴隷屋の店主は、売り上げである少ないお金のほとんどを自分に使い、少しだけ奴隷の食事に当てる。

奴隷に与える食事など、最低限にも満たない。



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