月夜の翡翠と貴方
そして、静かに口を開く。
「………お前の素顔が晒されれば、確実に買われるだろうな」
その言葉に、小さく手が震え始める。
今日のあの青年を思い出して、怖くなった。
「………どうするかは……いや、どうなるかは、お前次第だよ」
「………………」
私には、こくん、と頷いて、テントから出ることしか出来なかった。
*
エルガは、稀な店主である。
奴隷屋の店主だというのに、奴隷に対して優しい。
奴隷ひとりひとりを理解し、世話しようとしている。
稀というか、変わっているというか、おかしな店主である。
今だって笑顔で、奴隷の子供達ひとりひとりに、パンを二枚ずつ分け与えている。
奴隷屋は、あまり儲かるものではない。
奴隷の売値など、たかが知れている。
普通の奴隷屋の店主は、売り上げである少ないお金のほとんどを自分に使い、少しだけ奴隷の食事に当てる。
奴隷に与える食事など、最低限にも満たない。