月夜の翡翠と貴方
「……うん。私はそう思ってるんだけど、ルトは友人として振る舞えって言うの。けど、私はどうしてもルトを主人としか思えなくてね」
私がゆっくりと話すのを、スジュナは静かに聞いていた。
「ルトが優しいのも、ルトが私を心配してくれるのも、全部まるで奴隷に対するものじゃなくて。私は…どうすればいいのか、わからないの」
さわさわと、風に揺れる木々を見つめる。
言葉にしてみると、感じていたもやもやの正体が、はっきりとした形で私のなかに沈んでいった。
実はとても、単純なこと。
私は...どうすれば良いのか、わからなかったのだ。
「奴隷と主人が仲良くするなんて、私には考えられないことだった。だから、スジュナちゃんとお父さんを見たとき、本当に驚いたの」
この、主従の上での関係に、絆など存在しえない。
...と、ついこの前まで思っていた。
友人として馴れ合うなんて聞いたことがないし、到底あり得ないことだと。
思っていたから、戸惑っている。
今の主人であるルトの、言葉通りの友人関係に、私はどうすればいいのかわからない。
彼の態度に、私はどう反応すればいいのだろう。