月夜の翡翠と貴方
しかし立場上、いつまでここにいれるかはわからない。
…いつ、誰に買われるか、わからない。
だからこそ今、ひとりひとりに愛情を注ぐのだ、とエルガは言う。
最も、愛を知らずに生きてきた子供達にとって、エルガは神様のような存在。
そうなると、この奴隷屋から子供達が売られ、エルガから離れた時が、とても辛いのではないかと思うが。
それはきっと、エルガ自身もわかっている。
しかし、それでもやめられないのだ、と言う。
私のもとへも、パンを配りにエルガがやってきた。
渡された二枚のパンを見ながら、私は優しく笑った。
「ずいぶん、奮発したね」
「…まぁな」
ちょっと金があったから、とエルガは言う。
私はそんな心底おかしな店主を、誰よりも信じているのだった。
*
翌日の空は、嫌になるほどの晴天で、日差しが強かった。
子供達のなかでいちばん年が上である私は、定期的に一日数回、井戸から水を汲んで来るのが仕事だった。
それを命じたのは、エルガである。
おそらく、私を客の目に触れさせる機会を減らすため。
それを思えば、仕事などいくらでもできた。