月夜の翡翠と貴方


しかし立場上、いつまでここにいれるかはわからない。

…いつ、誰に買われるか、わからない。

だからこそ今、ひとりひとりに愛情を注ぐのだ、とエルガは言う。


最も、愛を知らずに生きてきた子供達にとって、エルガは神様のような存在。

そうなると、この奴隷屋から子供達が売られ、エルガから離れた時が、とても辛いのではないかと思うが。


それはきっと、エルガ自身もわかっている。

しかし、それでもやめられないのだ、と言う。

私のもとへも、パンを配りにエルガがやってきた。

渡された二枚のパンを見ながら、私は優しく笑った。


「ずいぶん、奮発したね」

「…まぁな」


ちょっと金があったから、とエルガは言う。

私はそんな心底おかしな店主を、誰よりも信じているのだった。






翌日の空は、嫌になるほどの晴天で、日差しが強かった。


子供達のなかでいちばん年が上である私は、定期的に一日数回、井戸から水を汲んで来るのが仕事だった。

それを命じたのは、エルガである。

おそらく、私を客の目に触れさせる機会を減らすため。

それを思えば、仕事などいくらでもできた。



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