月夜の翡翠と貴方
「…………うん」
ラサバは、静かに下を向いた。
「みんな、そこは気になっても仕方ないと思う。けど、スジュナは皆が思ってるような子じゃないよ」
ラサバには、そうとしか言えないのだろう。
俺が彼の立場でも、同じ事を言っただろうと思う。
奴隷という身分について、いくら説明しても、きっと意味はない。
今話しているのは、奴隷としてのスジュナではなく、ひとりの子供としてのスジュナのことなのだ。
あの娘が悪い子ではないのは、この二日間で充分にわかったから。
こんな、ふたりのことをよく知りもしない俺とジェイドでさえ、スジュナを良い子だと思っているのだ。
きっと、わかってくれるはず。
ラサバの言葉に、さらに眉をつり上げたロゼが、口を開いた。
*
静かな空を、鳴く烏が飛んでいる。
空が、黒の混じった茜色に染まっている。
そんな空をぼうっと眺めるスジュナを、私はちらりと見た。
ラサバとルトが裏口に消えてから、ずっとスジュナの目は沈んでいる。
その訳は、訊かずともわかるけれど。
「………スジュナちゃん」
呼ぶと、スジュナはゆっくりと振り返った。
……目が、潤んでいる。