月夜の翡翠と貴方
まずい。
予定というか理想では、この時点で話は済み、渋々でもスジュナを迎える気になってくれているはずだった。
しかし………
「どこの子かもわからないのに!仲良くできる自信ないわよ!」
劇場裏にある劇団一家の家の一部屋では、眉をつり上げたロゼの罵声が響いていた。
他の者も同じ事を思っているのか、ロゼの容赦無い言葉に何も言わない。
ルトは、ラサバがちらちらと冷や汗をかきながら、部屋の隅を見ているのに気づいた。
そちらに目をやると、恐らく役者勢で最も年上であろう、体格のいい男が、ずっしりと一人がけのソファに座っていた。
男は眉間にしわを寄せ、成り行きを静かに見つめていた。
……座長、なのだろう。
ラサバの様子を見て、恐れているのではないかと思った。
あの男が決断した事は、きっと絶対なのだ。
彼がスジュナを認めないと言えば、あとはなにを言っても無駄なような、そんな発言力が、あるのでは。
事態は、嫌な方向へ向かっている。
ロゼの罵声は、鳴り止まない。