月夜の翡翠と貴方


ラサバは何かを言いかけては、思い留まりやめる。


このままふたりが来たら。

俺とラサバの瞳に、焦りが浮かんだ。







もう、なかへ入る時間である。

私はそっと、隣のスジュナを見た。


「……スジュナちゃん」


スジュナはこちらを見上げると、優しく笑った。


「うん。行こ、おねえちゃん」


そう言うと、スジュナは私の手を引いて、裏口の扉の前へ立った。

静かに唾を飲み込んで、合鍵で扉をそっと開ける。

カチャ、と音と共に、扉を開けた。

中へと、足を踏み出す。

劇場裏の家は狭く、全体的に古めかしい印象がした。

確か、二階と言っていただろうか。

皆が二階の部屋に集まっているからか、一階はとても暗い。

劇場のほうへこの家の音が響かないよう、家のつくりを工夫していると聞いた。

二階への階段の前に立ち、二階を見上げる。

二階の向こうの部屋から、少しだけ高い声が聞こえた。


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