月夜の翡翠と貴方
ラサバは何かを言いかけては、思い留まりやめる。
このままふたりが来たら。
俺とラサバの瞳に、焦りが浮かんだ。
*
もう、なかへ入る時間である。
私はそっと、隣のスジュナを見た。
「……スジュナちゃん」
スジュナはこちらを見上げると、優しく笑った。
「うん。行こ、おねえちゃん」
そう言うと、スジュナは私の手を引いて、裏口の扉の前へ立った。
静かに唾を飲み込んで、合鍵で扉をそっと開ける。
カチャ、と音と共に、扉を開けた。
中へと、足を踏み出す。
劇場裏の家は狭く、全体的に古めかしい印象がした。
確か、二階と言っていただろうか。
皆が二階の部屋に集まっているからか、一階はとても暗い。
劇場のほうへこの家の音が響かないよう、家のつくりを工夫していると聞いた。
二階への階段の前に立ち、二階を見上げる。
二階の向こうの部屋から、少しだけ高い声が聞こえた。