月夜の翡翠と貴方
私達が来れるよう、部屋の扉は開けておくと、ふたりは言っていた。
...待って。
待って、待って!
声に出せない叫びは、少女に届かない。
...息を切らしたスジュナが、扉の前で足を止めた。
「奴隷を家族にだなんて、兄さんはおかしいわ!どうやったってなれるわけないのに!」
...ああ。
嫌な予感が、当たってしまった。
はぁ、と息を切らして、スジュナの隣に立つ。
……スジュナの目は、大きく見開かれていた。
声の主は、部屋の中心に立っている小柄な少女だった。
その可愛らしい顔を、怒りの表情へ変えている。
彼女は部屋の入口に立っているスジュナに気づくと、目を見開いた。
他の、劇団の人間だと思われる者たちも、スジュナの姿にはっとしている。
ルトとラサバも、視界の端に見えた。
...嘘でしょう?
予想したくなかった、最悪の状態。
「…………この子?」
少女が眉を寄せ、スジュナを凝視する。
「………ねぇ、この子なの?」
そして、ラサバに視線を送った。