月夜の翡翠と貴方


...わからない。

もう、全部わからない。

自分もルトも、ラサバもスジュナも、みんなわからない。

怖いのだ。

自分が自分でなくなるようで。

ルトに買われてから今までのことを考え、ぐるぐるとさまよう。

そのなかであることをふと思い出して、私は自分の頬に触れた。

...わずかに、熱が残る頬。


「…あんなこと、いきなりするし」


唇を尖らせると、ルトは微かに笑い声を漏らした。

「いや。まぁ…あれはやりすぎたかなとは思うよ。ごめん。けど、ちょっとムカついたっつーか、ね?」

そう、お得意の調子で誤魔化す。

私の目は、下を向いたまま。

そんな私を見て、ルトは落ちついた声で言った。

「ラサバさんにしてもさ、ただスジュナちゃんが好きなだけだよ。『親子』って名前を抜きにして、奴隷だとか主人だとかの前に…なんで、娘と思えるかなんて、今更だろ」

...そう。

その通りだ。

頭ではわかっていても、感情が追いつかない。

ふたりは、お互いに支えあって生きている。

充分すぎるほどに、分かったはずなのに。

ルトが、こちらへ歩みを止めた。

「…とにかくさ、お前細かいこと考えすぎ。お前にとっては確かに驚くことかもしれないけど。俺は、お前に対する態度を改める気はないから」

その言葉に、私は唇を噛んだ。

...どうして?

だって、だって。


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