月夜の翡翠と貴方
「私には、ルトの優しさをもらう価値なんてないよ………」
呟いた言葉に、彼がため息をつく。
「だからな…」
「違うの」
私の出した張り詰めた声に、ルトは驚いたようだった。
項垂れるように、深くうつむいて。
「違うんだよ………」
いつも平坦な私の声とは思えないほど、苦しさに怯えた声が出た。
ぽつり、ぽつりと話し始める私を、ルトは静かに見つめていた。
「…私…奴隷になって、たくさんの主人に買われて、いくつもの奴隷屋に売られてきた」
...はじめこそ、抵抗した。
でも、そのうち抵抗することもやめた。
「何度も殺されかけたし、危険な目にもあった。それが繰り返されていくうちに、どうでもよくなって」
彼は再び一歩、こちらへ歩み寄ってくる。
私はルトを見ずに、うつむいたまま話し続けた。
「…でもやっぱり悔しくて…とにかく生きようって思った。生きることだけが、今の希望なの」
くしゃ、とシーツを掴み、握りしめる。
スジュナの、『大好き』の言葉が頭の奥で響いた。
...どうしてルトにこんなこと、話しているのだろう。