月夜の翡翠と貴方


けれど、知って欲しかった。

何故だかそう思ってしまった私の唇は、すぅ、と小さく息を吸った。

...醜い、私の。

汚くて狡い、生き方。


「……生きるためなら、どんなことでもできる。……たとえ、身体を差し出すことだって、厭わない」


ルトの歩みが、止まった。

驚いた?

…さすがの彼でも、軽蔑するだろうか。

でも、でも。

「私は、そういう奴なの。汚れてるの。…ルトに、優しくしてもらう価値なんて、ない」

私は、奴隷なのだ。

ルトとは違う。

身分が、全く違う。


「人間らしく、扱われていいはずないの……」


もちろん、スジュナからあの言葉をもらうなんて、できない。

自嘲するように、微かに笑った。

うつむいたまま、一瞬だけ目を閉じる。

そしてもう一度開くと、ルトの足が見える。

……いつのまにか、ルトは私の目の前にいた。

私には、今ルトがどんな顔をしているのかわからない。

ルトが、少しだけ動いた。

反射的に、きつく目を閉じる。


...怖くなんか、ない。

別に、ここで捨てられたって構わない。


< 202 / 710 >

この作品をシェア

pagetop