月夜の翡翠と貴方
数日でもルトと一緒にいて、少なからず私は『人間』でいられた。
それだけでいい。
そう思っている自分自身が、だいぶ彼になついているらしいことがわかって、心の中で苦笑した。
...もう、いい。
そう覚悟を決めた私の頭を、ルトは優しく撫でた。
え………
思わず、目を開いて彼を見上げた。
ルトは腰を折り、自らの顔をこちらへ近づけてくる。
少しだけ涙がたまった橙の瞳を、真っ直ぐに深緑が捉えた。
...逃れ、られない。
「そらすなよ」
まるで時が止まったように、ルトの声だけが私の中に強く響いた。
ルトの手が、頬に触れる。
思わず震えた私を、優しく撫でた。
「……お前は、汚くないよ」
ルトの声が、優しくて。
その指が、私の目の淵に触れる。
「...ただ生きることに、ひたむきなだけだよ」
...ひた、むき。
そんな言葉、私にはふさわしくないはずなのに。
ルトは、私の瞳の奥を覗き込むように見据えた。