月夜の翡翠と貴方
「お二人とも、お元気で」
ラサバが深々と頭を下げる。
「そっちも、元気で」
そして、ルトが歩み出す。
彼について行きながら、後ろで頭を下げ続けるラサバと、こちらへ元気良く手を振るスジュナを見つめた。
きっとこれから、ふたりにとって辛い事もたくさんあるだろう。
けれどあのふたりなら、きっと大丈夫だ、と思った。
どうか、元気で。
私は一度深く頭を下げると、優しく微笑んで、ルトの後ろへついていった。
与えたものも、与えられたものも、お互いの糧になるといい。
そう素直に思えたことが、なんだかとても新鮮で、凄く嬉しかった。
*
そうして、スジュナ達と過ごしたチェーリスの町を去り、五日が経った。
長居しすぎたらしく、ルトは次々町を歩いて行く。
その間も、ルトはあの夜の事はなにも言わなかった。
優しさだろうか。
いや、ただ興味がないだけかもしれない。
彼の態度は変わらない。
私達の関係だって、変わらない。
ひとつだけ変わったのは、私の気持ちだった。
確実に、明らかに、私のなかのルトは、姿を変えていく。