月夜の翡翠と貴方


「お二人とも、お元気で」


ラサバが深々と頭を下げる。


「そっちも、元気で」


そして、ルトが歩み出す。

彼について行きながら、後ろで頭を下げ続けるラサバと、こちらへ元気良く手を振るスジュナを見つめた。

きっとこれから、ふたりにとって辛い事もたくさんあるだろう。

けれどあのふたりなら、きっと大丈夫だ、と思った。


どうか、元気で。


私は一度深く頭を下げると、優しく微笑んで、ルトの後ろへついていった。


与えたものも、与えられたものも、お互いの糧になるといい。

そう素直に思えたことが、なんだかとても新鮮で、凄く嬉しかった。







そうして、スジュナ達と過ごしたチェーリスの町を去り、五日が経った。

長居しすぎたらしく、ルトは次々町を歩いて行く。

その間も、ルトはあの夜の事はなにも言わなかった。


優しさだろうか。

いや、ただ興味がないだけかもしれない。

彼の態度は変わらない。

私達の関係だって、変わらない。

ひとつだけ変わったのは、私の気持ちだった。

確実に、明らかに、私のなかのルトは、姿を変えていく。


< 207 / 710 >

この作品をシェア

pagetop