月夜の翡翠と貴方


ルトは話しながらも、前を向き続けた。


「俺から、離れるなよ」


離れないよ。

喉から出かけたそんな言葉を、私は見て見ぬふりをする。

少しずつ変わっていく自分に、少しずつ気づき始めていた。

けれど、私はそれを気づきたくない。

知られたくない。

この気持ちの正体が、恐ろしかった。

ルトに悟られないように、必死に隠す。

自分さえも欺きたがる、醜い私。





人を避けながら、ルトに着いて行く。

凄い賑わいだ。

あちこちで声が飛び交い、人が行き交う。

だいぶ歩いたというのに、人の波はおさまることがない。

向かってくる人々の間を通りながら、私達は街の西側を歩いていた。


「ねぇ、用事って、なに?」


聞いて良いものか迷っていたが、ルトはためらうことなく、あっさりと教えてくれた。

「この前出した、手紙の返事が来てるはずなんだよ。この街の知り合いの店に届くようになってるから」

...いつかの夜に、ルトが書いていた手紙だ。

私の知らない人へ、送った手紙。

「そっか」とだけ、返事をした。


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