月夜の翡翠と貴方
ルトは話しながらも、前を向き続けた。
「俺から、離れるなよ」
離れないよ。
喉から出かけたそんな言葉を、私は見て見ぬふりをする。
少しずつ変わっていく自分に、少しずつ気づき始めていた。
けれど、私はそれを気づきたくない。
知られたくない。
この気持ちの正体が、恐ろしかった。
ルトに悟られないように、必死に隠す。
自分さえも欺きたがる、醜い私。
*
人を避けながら、ルトに着いて行く。
凄い賑わいだ。
あちこちで声が飛び交い、人が行き交う。
だいぶ歩いたというのに、人の波はおさまることがない。
向かってくる人々の間を通りながら、私達は街の西側を歩いていた。
「ねぇ、用事って、なに?」
聞いて良いものか迷っていたが、ルトはためらうことなく、あっさりと教えてくれた。
「この前出した、手紙の返事が来てるはずなんだよ。この街の知り合いの店に届くようになってるから」
...いつかの夜に、ルトが書いていた手紙だ。
私の知らない人へ、送った手紙。
「そっか」とだけ、返事をした。