月夜の翡翠と貴方
すると青年は、肩をすくめ、さもあっけらかんと言った。
「そのときは、そのときだよ」
…全く、無責任な発言である。
自分の容姿を憎む奴隷の少女は、今まで何度も見てきた。
醜い、私は醜い、だから愛されない。
そう、泣きわめいて。
彼は、たとえ私がそのうちのひとりであっても、気にしないのだろう。
私が奴隷、だから。
私は昨日の、彼と別れたときを思い出した。
この青年は、私の素顔を見ずに、逃がしてくれたけれど。
きっと、あれは昨日だけだったのだ。
彼も、結局は他の人間と同じなのだ。
最も、私が自分の容姿を憎むひとりであるというのは、別の意味で本当だが。
私はじっと彼を見つめた後、すっとバケツを持った。
「私の顔は、見てみる価値すらありません。ですから…」
「逃がしてくれって?…そうはいかないよ」
青年のその言葉に、井戸から離れようとしていた私の足の動きが、止まる。
彼は、変わらずこちらをまっすぐに見据えていた。
「だって君、そうじゃないでしょ」
…この、男…
私は信じられない気持ちで、彼を見た。
『そう』、とは恐らく、『期待に添えない容姿』ということ。
『期待に添えない容姿ではないだろう』、と、彼は私に言っているのだ。