月夜の翡翠と貴方


用事があるといってどこかへ行ったが、それがあのときはありがたかった。


ひとりで考えたい、と思ったから。


ルトは、依頼屋。

依頼を受けて、依頼主の代わりにそれを実行する。

報酬と、引き換えに。

いつかに耳にしたことがある気がする。

貴族などが、より強い権力を求めて、有り余る財力を使い裏で秘密裏に動く。

それに使われたりするのが、依頼屋であると。

公にでるような仕事でないのはわかる。

それこそミラゼが、何も言わない私に仕方ない、と言って納得した意味も。

つまりは、依頼ごとに関しての守秘義務があるのだ。

私も詳しい訳ではないが、それを聞いた瞬間、ひとつの可能性が頭に浮かんだ。


ルトは、美しい女を求めて奴隷屋へ来た。

そして、私を買った。

それは、誰かから依頼を受けてやっていることなのではないか。

私が駄目なら他を当たらなければならないと言っていたのも、それなら頷ける。

どうしても、『美しい女』を奴隷屋から手に入れなければならなかった、理由。


「……………………」


どんな依頼なのかは、わからない。

けれど………………

どくん、とまた心臓が脈打つ。


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