月夜の翡翠と貴方


そこで、ある人間の顔が頭をよぎった。


「…………………っ」


一瞬で我に返り、ギリギリで踏みとどまる。

静かに顔をあげ、はぁ、と溜息をついた。


「…なにやってんだよ…………」


ポツリと呟いた、その悩ましげな声は、誰の耳にも届かず消えた。







翌朝。

起きると、寝台の上にいた。

ルトが運んでくれたらしい。

礼を言うと、ルトも昨日は寝てごめん、と謝って来た。

宿までリロザが運んでくれたことを言うと、苦い顔をされた。

そのうち礼を言うと言ったが、次はいつ会えるだろうか。

そんなことを思いながら宿をでた、昼前。


「とにかく、もっかいミラゼの店に行かないとな」


宿の玄関先で、ルトが伸びをする。


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