月夜の翡翠と貴方
そこで、ある人間の顔が頭をよぎった。
「…………………っ」
一瞬で我に返り、ギリギリで踏みとどまる。
静かに顔をあげ、はぁ、と溜息をついた。
「…なにやってんだよ…………」
ポツリと呟いた、その悩ましげな声は、誰の耳にも届かず消えた。
*
翌朝。
起きると、寝台の上にいた。
ルトが運んでくれたらしい。
礼を言うと、ルトも昨日は寝てごめん、と謝って来た。
宿までリロザが運んでくれたことを言うと、苦い顔をされた。
そのうち礼を言うと言ったが、次はいつ会えるだろうか。
そんなことを思いながら宿をでた、昼前。
「とにかく、もっかいミラゼの店に行かないとな」
宿の玄関先で、ルトが伸びをする。