月夜の翡翠と貴方


そのとき少しだけ、青年の瞳が揺れた気がした。

…『君に悪いし』。

その言葉に、私は少し驚いた。

これは、先程の『彼も他の人間と同じ』という認識を改める必要があるかもしれない。

青年は、昨日のことは微塵にも悪いと感じていないわけではないようだ。


…しかし、どちらにしろ、フードをとる気は毛頭ない私には、そんな優しさも意味をなさない。

私にとっては、この状況だけで充分に迷惑なのだ。


「………悪いですけど、無理です。テントへ戻ります」

「俺だって無理だよ」

「…………」


なかなか引かない青年に、半ば疲れてきた。

ここで折れる気などは、全くないけれど。

しばし、無言の睨み合いが続いた。

「…………」

「…………」

それから、少しして。


「……………はぁ」


そう、先に声を漏らしたのは、青年のほうだった。


「あー、もう。どこまで頑固なんだよ。わかった、降参」


そう言って、青年は両手を上げる。


「俺もいつまでも、ここで粘ってるわけにもいかないし。君がダメなら、他を探さないといけない」

…なるほど。

よほど探さなければならない理由でも、あるのだろうか。



< 26 / 710 >

この作品をシェア

pagetop