月夜の翡翠と貴方
そのとき少しだけ、青年の瞳が揺れた気がした。
…『君に悪いし』。
その言葉に、私は少し驚いた。
これは、先程の『彼も他の人間と同じ』という認識を改める必要があるかもしれない。
青年は、昨日のことは微塵にも悪いと感じていないわけではないようだ。
…しかし、どちらにしろ、フードをとる気は毛頭ない私には、そんな優しさも意味をなさない。
私にとっては、この状況だけで充分に迷惑なのだ。
「………悪いですけど、無理です。テントへ戻ります」
「俺だって無理だよ」
「…………」
なかなか引かない青年に、半ば疲れてきた。
ここで折れる気などは、全くないけれど。
しばし、無言の睨み合いが続いた。
「…………」
「…………」
それから、少しして。
「……………はぁ」
そう、先に声を漏らしたのは、青年のほうだった。
「あー、もう。どこまで頑固なんだよ。わかった、降参」
そう言って、青年は両手を上げる。
「俺もいつまでも、ここで粘ってるわけにもいかないし。君がダメなら、他を探さないといけない」
…なるほど。
よほど探さなければならない理由でも、あるのだろうか。