月夜の翡翠と貴方
ほっと息をつこうとしたら、青年は「じゃあ、最後に」と言い出した。
…今度は、なんなんだ。
「今から俺が十五秒数える間に、俺の真横を通ってテントに戻れたら、君のことは諦めるよ」
…十五秒…
そう言うと、青年は目を瞑った。
「けど、君が俺の真横を通らなければ、容赦なく、ね」
…フードをとるよ、ということだろう。
昨日のあの動きといい、恐らく青年はそれなりの身体能力があるのだろう。
私が真横を通っていなければ、目を瞑っていてもきっとすぐにわかる。
そして、またあっという間に私はフードをとられてしまう。
面倒な条件だが、十五秒なら早足でバケツを持ったままでも、充分間に合う。
あとは、青年を信じるか否かだが、何故か私は彼は嘘をつかない、と確信していた。
何故かは、知らない。
多分、直感。
進む道を目で追いながら、私は青年に返事をした。
「…わかりました」