月夜の翡翠と貴方
直接そう言われた訳ではないが、他人から『綺麗』と言われたときに、あまり嬉しそうな顔をしないから。
「あ…いや、今のは……」
弁解しようとすると、ジェイドが「ううん」と言った。
俯いたまま、小さな声で言葉を紡ぐ。
「…嬉しいよ」
「え?」
そこで、彼女はぱっと顔を上げた。
口元が、微かに上がっている。
驚く俺を見て、「あのね」と呟く。
「…私には、自分が他人の目にどう映っているのかは、わからない。綺麗なんだとしても、私には、それが綺麗かなんてわかんない」
...そう話始めたジェイドを、黙って見つめる。
彼女は俺が見てきたなかで、いちばん明るい笑みを見せた。
「けど、ルトが綺麗って言ってくれたら、例え私が自分で綺麗だって思えなくても、それでいいって思えるの。今、ルトが言ってくれたこと、なんだかとても嬉しかった」
美しく、優しく。
橙の瞳を細めて微笑んだジェイドは、照れたように頬を赤くした。
「だからね、ありがとう。綺麗って言ってくれて、ありがとう」
初めて、こんなにも一生懸命に自分の気持ちを伝えてくるジェイドを見た。