月夜の翡翠と貴方
護衛、静かな夜、冷酷な
「ありがとうございましたー」
女店員の声と共に、店を出る。
もう、空が茜と灰色に染まっていた。
「疲れた……」
ルトが、ドレスや靴が入った箱を持って、ため息をついた。
「最後に全部買えてよかった」
そう言うと、ルトは「そうだな」と満足気に笑う。
「似合うのがあってよかった」
「うん」
私はそう返事をしながらも、別の事にひたすら後悔していた。
....ああ、もう。
例にもよって、またも。
今こそルトが普通に話をしているから、私も普通に返事をしているが。
本当なら、頭から火を吹く勢いで、顔を火照らせていたところである。
何を、言ったんだろうか。
何を、言ってしまったのだろうか。
ただでさえ、あんなこっぱずかしいドレスなど着ていたというのに…
私は。
まさか、『ルトになら、綺麗と言われても嬉しい』などと。
『綺麗と言ってくれてありがとう』などと。
まさか、まさかあんなに笑って、言うなんて。
ありえない、と思った。
あんなこと、私が言ってしまうなんて、あり得ないと。
「………………………」
ふと、自分の左手を見つめる。
手と手が、繋がっている。
私の手より大きな、ルトの右手。