月夜の翡翠と貴方
ルトの横顔が、見えた。
…だって。
あんなことを口走ってしまったのは、他でもないルトのせいなのだ。
先程彼は私の姿を見て、『綺麗』だと言った。
いつもなら、仏頂面で返す事が出来ただろうに…
その笑みが、とても綺麗だったから。
私を見て、目を細め、大切なものを見つめるような、そんな優しい瞳だったから。
私はそれを、その言葉を、『嬉しい』と感じてしまった。
....勘違い、かもしれない。自惚れ、かもしれない。
けれど、今まで私に向けられてきたのは、そんな笑みではなかったのだ。
私を『綺麗』だと言う人々のその顔は、己の利益と欲望によって、醜く歪められたもので。
...初めてだったのだ。
あんなに美しい、『綺麗』の言葉をもらったのは。
「どこ向かってるの」
今更考え込んでも、ルトが平然としているのだから仕方ない。