月夜の翡翠と貴方
そう思い、私の手を引いて歩く、ルトを見上げて尋ねた。
「郵便商。…これ、届けないといけないからな」
そう言ったルトの顔は、何故か少しばかり悲しそうだった。
...郵便商へ持っていくのは、先程買ったばかりのドレス。
もともとこれは、ルトに『依頼主』が、わざわざ金を送ってまで買わせたものなのだ。
何故私のドレスなのかは知らないが、ルトが受けた依頼で、必要なものなのだろう。
それを依頼主に届けるのは、当たり前のこと。
「……………そう」
...だけれど。
送ってしまうのか、と。
ふたりであんなに頑張って探したドレスを、送ってしまうのかと、思った。
私のドレスを、私の知らない誰かに。
「………………………」
ルトが受けた依頼が、どんなものなのか。
知識の少ない私には、よくわからない。
けれど、もう一度私があのドレスを着たとき、ルトはもう見てはくれないことだけはわかる。
いないのだ。そこに。その場に。
もう二度と、あの笑みは見られない。
なんだか途端に、苦しくなった。
嫌なのに。
苦しくなんて、なりたくないのに。
思っては、いけないのにー……
「ルト様」
低い、落ち着いた男の声がした。
郵便商の建物のすぐ近くで。