月夜の翡翠と貴方
振り返ると、すぐ後ろに、黒の正装姿をした黒髪の男がいた。
「お前、リロザんとこの…」
ルトが彼を見て、驚いた声を出す。
リロザ?
男は笑むことのない無表情で、低く淡々と返事をした。
「覚えていて下さってありがとうございます。渡したいものがございますので、そちらの路地へ向かっていただけますか」
言われるがまま、近くの路地へむかう。
リロザのとこの…と言うあたり、エルフォード家の人間だろうか。
「お前、なんだっけ。えーと...む..ムクギ、だったか」
「はい。名まで覚えていて下さるとは、嬉しいです」
そう言いながらも、男の表情はあまり変わっていない。
路地へ入ると、ムクギは懐から一枚の紙を取り出した。
「渡したいものって、それ?」
「はい。リロザ様からです」
ルトはそれを受け取ると、その紙に書かれている文を読む。
何が書かれているのか、こちらからは見えない。
ムクギは変わらない無表情で、前を向いている。
リロザを様付けしているということは、エルフォードの使用人か何かだろう。
ルトが、紙から顔を上げた。
「今夜って…今からか?」