月夜の翡翠と貴方


「じゃあ、決まりね。報酬だけど、当然くれるのよね?」


口元の笑みを絶やさないミラゼが、ふふんと右手を腰に当てた。

「もちろんだ。金額はまた、終わってから決めてくれれば良い」

「馴染みだからって、容赦はしねーよ?」

ルトが明るさを取り戻した顔で、笑っている。


「はは。好きにしてくれ」


三人は幼馴染。

それだけあって、包む空気は柔らかかった。



「では、明日の朝、九時に西門へ来てくれ」


リロザの言葉と共に、解散した。





...誰か、助けて欲しい。

この、気まずく重たい空気を。


宿に戻ってから…いや、酒場を出てから、ふたりになった途端に、沈黙が下りた。

原因は、ルトだ。

何も喋らないのだ。


いつもなら、ルトがたくさん話す。

そこに私は時折言葉を挟むだけで、会話が成り立っているのはほとんどルトが喋るからである。

しかし、私が何度見上げようとも、彼はこちらを見ない。

前を向いていたり、街を見ていたり。

それは、宿に着いても変わらなかった。

今は、無言でさっさと浴室へ行ってしまった。


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