月夜の翡翠と貴方
「………………………」
寝台にひとり、腰を下ろす。
私と目を合わせようとしない、その訳はわかる。
怒っているのだろう。
私が勝手に、ミラゼなら依頼屋の事を聞いたから。
そして、それを黙っていたから。
「……………はあ」
やはり、聞くべきではなかった。
ミラゼの言葉を聞いたルトは、それはひどく動揺していた。
しかし、今更謝ってもどうしようもない。
それに、彼が依頼屋だとわかっても、私はどうもしない。
結局は、受けた依頼がどんなものかもわからないのだ。
彼の怒りが収まるまで、私はおとなしくしていよう。
そこで、ルトが浴室から出てきた。
「!…………………」
思わずそちらへ視線を向けるが、ルトはその視線から逃れるように、こちらを見ようとしなかった。
「…………………………」
再度溜息をつきたくなったが、我慢して浴室へ向かう。
「ジェイド」
普段より、少し低い声。
水の入ったコップを持って、窓を見ながらルトが呼んだ。
「…………………なに?」
まさか、このタイミングで呼ばれると思わなかった。
なるべく普段通りを努めた声で、返事をする。