月夜の翡翠と貴方
そこから、この絶壁を滑り下りて来たのか。
「………………誰だよ」
ルトが、低い声で男達を見据える。
貧相な身なりの男のひとりが、フ、と笑った。
「その馬車、エルフォードのだろ?」
「…………っ」
リロザが顔をしかめる。
ああ、リロザの心配が的中した。
取り引きのことまで、嗅ぎつけられていたのだ。
「………おふたりとも、なるべく身をお寄せください」
ムクギが小声で、私とリロザに身を寄せ合うように言う。
彼は、自身の剣の鞘を抜く構えをした。
「悪いけど、あんたたちにかまってる暇ないのよね。どこのだれだか知らないけど、どいてくれる?」
男の問いに答えることなく、ミラゼが淡々と言葉を返した。
「悪いが、それはできねーなぁ」
ムクギが、馬車のなかが外から見えないよう、正面の窓のカーテンを閉めたので、外の様子はわからない。
けれど、声で、この場がとてつもなく危険だとわかる。