月夜の翡翠と貴方


「俺はお前らじゃなく、その馬車のなかにいる坊ちゃんに用があるんだよ」


「……………!」


隣で座るリロザが、息を飲むのがわかった。

リロザは、小さな木箱を抱きしめて、自らの怯えを必死で抑えていた。

きっと、この木箱のなかに、クリセリカの実が入っているのだろう。

私も、ミラゼから借りたナイフを、小袋から出した。


「おーい、でてこいよ!居るんだろ!?次男坊!」


男のふざけた声が聞こえる。

リロザは、奥歯を噛み締めていた。

「……………さっさと、退けよ」

ルトの低い声が、私の耳に響く。

彼の声じゃ、ないみたいに。

「………うるせーなぁ。折角穏便にと思ってんのに。坊ちゃんが、取り引きの『大切なモノ』、渡してくれたら済むんだよ」

あるんだろ?と男が笑う。

…そこまで、知られているのか。


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