月夜の翡翠と貴方


ムクギが、苦しげに男の拳を避ける。

もうひとりの男の剣にも応じているために、彼は段々と後ろへ下がっていった。

「……………………」

すぐ近くで、ムクギが苦しげに顔を歪ませている。

馬車の中からでは…いや、私とリロザには、何もできないのが悔しい。


「ー…ムクギ、頭下げろ!」


突然近くでに聞こえた、ルトの大きな声。

その瞬間、飛躍してムクギの頭上にいたルトが、殴りかかる男の頭に飛び蹴りをお見舞いする。

ムクギは、指示通り咄嗟に頭を下げていた。

剣を持っていた男の頭もかすめ、男達が地面に崩れ落ちた。


「………助かりました…!」


息を切らしながら、ムクギがルトに礼を言う。

ほっと息をついた、その時。


ー…ガチャン!!

「!」

私の真後ろで、金具が壊れる音がした。

…まさか。

振り返ると、左扉の鍵が見事に壊され、扉が開いている。


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