月夜の翡翠と貴方


最初にミラゼとやりあっていたらしい男が、いつのまにかこちらへ来ていたようだ。

右扉の向こうで激しくやりあっていたために、全く気づかなかった。

息をあげた男が、私を見て嫌な笑みを浮かべる。


「………!」


男の腕が伸びてきて、私の腕を掴んだ。

「ジェイドさん!!」

「…………っ」

力が強い。

すぐに馬車から引っ張り出された。

男は私の後ろに回り込み、両手首を掴む。


「……ジェイド!?」


事態に気づいたルトが、馬車の上へと乗った。

そのまま男に飛びかかろうとしたルトに、男が叫ぶ。

「待てよ!」

そして自身の短剣の切っ先を、私の喉元につけた。


「………動いたら、この女の命はないぞ」


にやっと、男は勝ち誇った顔で笑う。

「……………………」

最悪だ。

完全に、足手まといになっている。

ルトの顔も、しまった、という顔をしていた。

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