月夜の翡翠と貴方
「この女の命が惜しければ、早く『モノ』を渡せ」
「………………」
リロザが、弱々しく顔を引きつらせ、こちらを見ている。
...頼むから、指示に従うようなことはしないで欲しい。
ミラゼは、いつナイフを投げようか、頃合いを見計らっているようだった。
不安気にこちらを見つめている、ルトを見上げた。
生憎と、私は人質にされるようなか弱い娘ではない。
この状況に、ひるまない程度には。
私は、ぐっと唇を噛んだ。
…自分の身は、自分で守ると決めたのだ。
「……………はなしてっ……」
緊張で沈黙の下りた場に、私のか細い声が響いた。
弱々しげに、掴まれた両手首を動かす。
顔を、今にも泣き出しそうな表情にして。
抵抗する。
…フリを、する。
弱い力で手首を動かすが、びくともしない。
そのことに、男はますます得意げに口元を上げた。
「ほら…女が苦しそうだぞ。早くしろ」
「…いやっ…助けて...!…」
涙ぐんだ瞳で、ルトを見上げる。
伝われ。伝われ。
私がこんな女ではないことは、彼がいちばんわかっているはずだ。