月夜の翡翠と貴方
急いで、男から離れる。
「……女ぁ!!!」
男の怒りの矛先が、こちらに向かった。
脇腹の痛みに顔を歪めながら、短剣を向けてくる。
「……………!」
思わず、目をつむった瞬間。
「…………がっ…………」
そんな、男の呻きが聞こえた。
目を見開くと、空中でルトが足を振り上げている。
蹴ったのだ。
ルトが地面に足をつけたと同時に、男が近くの木の幹に体を打ち付ける。
そのまま倒れこみ、体を弛緩させた。
男が苦しげに顔をあげると、その喉元に、ルトの剣の切っ先が突きつけられた。
「!!」
体を震わせる男を、静かに見下ろす。
「同じだろ」
ルトの瞳が、深緑が。
「お前がしたことと、同じだろ」
冷たい。
暗くて、恐ろしくて。
あのときと一緒だ。
あの日、ルトに買われた日の夜、酒場でルトが大男を見上げた、あの目。
暗い暗い、底無しの深緑。